3代目市川猿之助襲名披露興行が昭和38年5月に行われました。
祖父の2代目猿之助の当たり役『黒塚』を、
急遽、しかも、周囲の反対を押さえて
行うことになったそうですね。
弱冠23歳で顔にシワを描いて、
ゴマ塩の白の鬘で舞台稽古に臨んだときは
恥ずかしかった、と書いてあります。
大先輩がズラッと並んで見ている中での総ざらいの雰囲気は
さすがに忘れられない、とのこととか。
祖父・猿之助の生霊が乗り移って新・猿之助を
踊らせている、と言っていた人もいるそうですね。
また、観る人の心のせいだとは思っても、
「『舞台の袖のところに小太りの白髪の老人がいて、
私がよろけそうになると、その老人がスゥーッとそばに寄ってきて、
手を差しのべて、スゥーッと消えていった』」
とか聞くと、
ほんとうにそうだったろう!!
という気持ちになります。
祖父・猿之助が、病院のベッドの上に起き上がって
『黒塚』の上演中じっと合掌していた
という有名な話を聞くにつけても。
「感じをとれ」という踊りの稽古の様子とか、
役の中で、目線の動きがどういう気持ちでそうなっているか、とか、
そういういわば、「心」を、8年間いっしょに暮らすなかで
数え切れないくらい身体に染み込ませたことが、
この本に細かく書かれています。
芸に関係ない者にも、なんの分野にもあてはまることも多く、
「はーーっ」
「ううーーん」
と、感心して唸りつつ読み進めていく本です。
わたしは例によって1984年版の古本で読んでいますが、
文庫になってました。