目次
竹内政明さんは、自称「名文病」患者
読売新聞「編集手帳」を2017年まで16年間書いていたのが
竹内政明さんです。
以前、雑誌「考える人」で、
「手帳から」という
気に入ったことばを紹介した文章を
読んだことがありました。
飛行機の中で隣りの乗客と喧嘩になって
「表へ出ろ!」と叫んだ話で、
その叫んだ発頭人が
竹内さんだと、記憶違いをしていました。
今回読み返してみて
いまは亡き噺家の春風亭梅橋のことだったと判明。
失礼しました。(竹内さんと知り合いなわけじゃないけど)
竹内さんもそうとう愛酒家らしいです、話の様子からすると。
読む力もほしいけど、書く力ももう少しマシにしたい!
と思って読みました・・・
『書く力』
朝日新書。
読売の人と元NKHの人の対談を朝日新聞から出す
っていう変則的な本になっているようです。
名文病患者直伝わざが山盛り
覚えておきたい、と思うところに付箋をつけながら読んでいくと
いーーっぱい付箋がつくという種類の本です。
とりあえず、ビッグな点だけをここに記録することに。
ピッタリな部品とそれをつなぐブリッジ
池上さんがプロの書き手にタネ明かしさせようと
実際のコラムを題材にいろいろ聞き出しているので
たいへん勉強になります。
編集手帳を書く人は日ごろから
いい表現はないかと
収集の手を緩めない生活をしていることがわかります。
たくさんの部品を集めて集めて
書くテーマに合わせてピッタリな部品をそこから取り出して使う、
部品どうしをつなぐブリッジを上手にかっこよくかける、
という作業がなされているんですねー。
そして、最後に高度な技術を用いておこなうのが
「最後のひとコマの緩み」とか。
一般人としては、納得はできますが実践はむずかしそう・・
でも、そういうコツについて読むのはとても有意義な気がします。
ことわざや俳句
収集品の中にはことわざや俳句も多いようで
我が久保田万太郎のもありました。
「走馬燈いのちを賭けてまはりけり」
いのちを賭けてまわっていた「走馬燈」が
「無残に踏みつぶされた」ときに使われています。
久保田万太郎の俳句は
先に挙げた「手帳から」の中でも
「半夜の歓を尽くす」のところで
「煮凝やいつまで残る酒の悔」が引かれていました。
簡潔、省略を効かせる
戸板康二さんの省略の利いた文章が挙げられています、名人芸として。
そのほか、これ以上ないくらいに短かくして
展開を自然に書いて、簡潔だからこそ良い文章になっている例が
挙げられています。
それから、落語の速記本をかなり読んだ、っていうのは
分野違いで意外な感じですが、
話の流れからするとむしろ自然でした。
お芝居・演芸好きの人間からすると、「やった!」なんて思います。
褒めたり、反対に批判したりするとき
褒めたり、反対に批判したりするときは
ストレートにそれと表現するんじゃなく、
「火種をそっと差し出す」と、読み手が「ガソリンを撒いてくれる」
という技も披露されています。
高度。
いろいろ用語集を渉猟
類語辞典、歌舞伎や相撲の用語集、倉嶋厚『雨のことば辞典』とかを
めくって、
気の利いた言葉を探すのは一般の人にも勧められる
ということです。
真似しようと思います。
一つの言葉を覚えたら、それで満足せずに、
多くの表現を知るように努めるのが文章の腕を上げる方法。
たくさんの本を読んで、「自分の中でしっくりくる表現」を
見出していくのは、やっぱりおすすめだとお二人とも認めていました。
いい文章を書き写す
いい文章を書き写すことを
竹内さんみたいな忙しい人が続けているそうです。
そうか・・・
読めばいいじゃん、って凡人は思っちゃう。
でも、言葉のリズムとか、漢字かひらがなか、とか、
句読点つけてるか、とか
読んだだけじゃ見逃していることって多いな、とは思う。
真似したい。
竹内さんは『井上靖全詩集』の『北国』という詩集だそうです。
漢詩や文語文に親しむのもおすすめで
お勉強になっちゃうと続かないから
楽しむのが続けるこつだそうです。
続けないと意味がないんで。
地道な努力、読み手を考えた伝わる表現
もう下品な家具は置けない状態にする
いい言葉を仕入れて使うと、その言葉のまわりの言葉も
良くなっていく。
上品なテーブルクロスがかかった部屋には
もう下品な家具は置けない!
ってこと。
納得。
自慢話はしない
自慢話はしない。
こう書くと当然のことのようなんだけど、
世の中に自慢臭のする文章や言動のいかに多いことか。
「今となってはいい思い出」となっている失敗談が
読み手にもっとも訴えるとも。
以前に自慢臭のしない本として『三文役者あなあきい伝』を
紹介したことがありました>>「敢えて「愛」なんて言葉は使いたくないほどウツクシイ」
自慢臭のしない文章は心地いいです。
これ書いた人と「半夜の歓を尽く」したい、としみじみ感じます・・・
あとがきにもいい表現が数珠つなぎ
「対談を終えて」という竹内さんのあとがきがまた、いいです。
「口の格闘技」である対談をしているうちに
「ポケットの裏地の袋まで引っ張り出されてしまった。」と。
このように、
いやにかぎかっこが多いのは、
竹内さんが使う言葉がどれもこれもすてきなので
他の言葉で表現する戦意を喪失させられている証拠です。
これじゃいけないんですね。
この本を読んだからには、
さらに別の言葉で
もっと気の利いた表現はないかと
探さなければいけないんです、ほんとうは。
これだけしゃべっておいて、自分を「訥弁」と言い、
今宵じぶんの「愚鈍なる舌」を
「酒責め」にすることを宣言して終わっています。
最初から最後まで、付箋だらけになった新書を見て
文章をすこしはマシに書けるようになるため、
まずは、好きな作家の文章をノートに写そうかと。
奇をてらわず一歩一歩。