ヨセフ・ラダが、子どもたちに語って聞かせたことから生まれたお話だけあって、
これはきっと、
ひとつひとつの話を耳から聞かせたら、よりおもしろく、
子どもたちの心の中で
大きくふくらんでいくタイプのものがたりだと思います。
絵から始まった彼の経歴からしても、
生まれ育ったフルシッツェ村で触れ合った動物たちが
たくさん活躍するものがたりがたくさんあるのは自然なことでしょう。
その筆頭がこの『きつねものがたり』というわけです。
きつねものがたりの舞台となる家は
ある「森ばん」の家「ぶなの木ごや」です。
「森番」っていうのも独特な存在ですね。
日本には、いたんでしょうか、似た存在が?
山の中のことをよく知っているということでは炭焼きの人
とかはいましたが・・
森ばんのボビヌシカさんが、
二人の子どもたちのおみやげとして獲ってきたのが
一匹の子ぎつね。
女の子のルージェンカは本が大すきで、
いつもきつねに本を読んでやっていました。
きつねは、じっと聞いているうちに、
ひとつひとつのことばをききわけるようになり、
しまいには、もう、のこらずわかるようになったのでした。
そうして、じぶんもはやく、お話のなかのきつねのように
かしこくなるために、いっしょうけんめい勉強しようと
決心します!
けど、いっしょに飼われている二匹の犬たちにいじめられ、
もう人間と住むのはやめよう、と決めて、
一人前のきつねになるため、森へ逃げ出すのです。
ここから、作者と読者は、このきつねに敬意をはらって
彼のことを「きつねくん」と呼ぶことにします。
きつねくんは、いくつもの楽しくも冒険に満ちた体験を経て
ものがたりのおしまいのほうでは
ある仕事につくことに成功します。
それも領主さまに認められた名誉ある仕事に。
ことばだって、ルージェンカにおそわって以来、
活用に活用を重ねたせいで、
「きつねなまり」なんて、ぜんぜんない人間語をしゃべります!
そうして礼儀正しく賢いきつねになります。
立派な服を着て、羽根つき帽子だってかぶっています。
———————————————-
たくさんのかわいい挿絵があるから、
小学校初級から読んでもいいけど、
字も小さめだし、一人でいっぺんに読み通すのはけっこうむずかしいかも。
一つずつ切って読むか、耳から聞くか
のほうが、内容に見合った年齢には向いているか?
という感じです。
チェコ人ならだれもが知っている『兵士シュベイクの冒険』の
挿絵が、このヨセフ・ラダの手によるものなのでした。
つまり、チェコのほとんどの人が、
彼の絵に小さいころから親しみ見慣れて
育っているということなのです。
小さな村の貧しい小屋で生まれて、
たった一つの部屋で
生活し、料理をし、眠り、靴を作り、靴を直していた、
という暮らしだったということです。
(イワン・クロウスキーによるあとがきより)
貧しい靴屋、って、ヨーロッパの昔話に多く登場しますね・・・
きっと、たくさんの貧しい靴屋さんがあちこちにいたんでしょう。
おとなも想像をふくらませながら語って聞かせる
素朴なものがたりであり、
「きつねなまり」に見られるように
内田莉莎子さんの訳が、とてもやさしいことばの響きをもっていて
心地よいです。