おとなの心にも子どもの心にも効くはなし 『むささび星』

『むささび星』を読みました。

九州、飫肥は杉の産地。

何百年も昔から、人々がこつこつと植えて育ててきた杉が
山一面に美しく並んでいます。
村の人たちは、杉といっしょに生まれ、育ち、年をとっていきました。

かつて、さし木にする若枝を摘み取るのは、
木登りの上手な若者たちの役目。
村祭りで杉の大木に登り、
一番早く、一番高いところにお札をつけてきた者が、
あくる年の春、杉の若枝を摘む役になります。

一番になった者が摘んだ穂は
根ざしがよく、育ちもよいといわれていたのです。

その村におかあさんと二人きりで貧しく暮らす太郎。
太郎は村祭りの木登り競争に子どもながら出ることにしましたが
まだ幼すぎてかわいそうに思ったのか、
神主さんは太郎に二度お祓いを授けてくれました。

太郎のおとうさんは太郎が小さいころに亡くなり
太郎が山で遊んでいると、
おとうさんの声が木の上のほうから
聞こえるように思えたのでした。

太郎は「むささび太郎」と言われるようになり、
何年もが過ぎていきました。

杉が、どこまでも美しく並ぶ山で生きてきた人たちの
くらしの歴史や、「働き歌」の響きが
作者・今西さんの心の中で醸成されてできた
悲しくも美しいおはなしです。

簡便に、速く、薄く、ということが
最善であるかのような今の世の中が、
ほんとうに人間にとって幸せなのだろうか?
と、ふと立ち止まって考えさせられます。

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