伝説の中にいる先住民と犬と少年が、今も生き生きと 『犬ぞりの少年』

「戌年」「冬」にちなんだお話を読んでいます。

表紙を見ると、楽しい犬ぞりレースのお話か、と思う。
ただ、少年ウィリーがレースに出る理由は、
税金の滞納を払うため。
まあ、そこまではよくある話かもしれない。
それに賞金を生活の何かに充てようとする話も
アメリカが舞台の話にはけっこうよくある。
けれどもここには、先住民族がたどった歴史も加わっている。

町のレースで常勝を誇ってきたのは先住民ストーン・フォックス。
ちなみに原題は『ストーン・フォックス』という。
ロッキー山脈に伝わる伝説がもとになっていると、
あとがきにある。
きっとストーン・フォックスのような男が実在しただろうと
訳者・久米氏は言う。

農場を営むおじいちゃんと暮らすウィリーは、
「そうしたいと思うだけでなく、かならずそうするという意志が大事だ」
とか
「質問するのはいいことだ」
とか日ごろ教えられている。

教育とは、個人が個人に与える影響力のことだ
と、どこかで読んだが、こういうことを言うのだろう。

困ったときに思い出して
活路を見つけるのに力になることを
与えてくれる人や本があるといい。

で、犬ぞりレースは、
見物のだれ一人として勝つと思っていない
必死の10才の犬と10才の少年が、途中まで1位だ。

必死すぎる一匹と一人。

作者ガーディナーが原作のあとがきに書いたように
創作ではあるが、結末のシーンは、
ほんとうにあったできごとだという。

日本語訳のタイトルは『犬ぞりの少年』で
たしかに少年ウィリーが、
おじいちゃんと農場のためにしたことの話なんだけれど
表紙で喜々として疾走する犬・サーチライトが演じる役割が
この物語の白眉だ。

楽しい犬ぞりレースのお話、ではない劇的な結末になる。

 

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