なんという名前なのかだれも知らない 『熊とにんげん』

名前なんかだれも知らないからみんなが「熊おじさん」と呼んでいた。
友だちが2人いた。
熊と神様。

ゆっくりと、いつも同じ、ひと呼吸に3歩の足取りで歩いていった。
いなか道にとけこんで。

角笛を吹いた。美しくやさしい音色。

太陽、嵐、雨が、熊おじさんの顔に数えきれないひびやしわを刻みつけ、
髪は白くなった。
それでもひと呼吸に3歩の足どりで、
おじさんと熊は歩いていた。

形は違っても、実は自分も同じだ、と思う。
そして、それでいいんだ、と思う。
自分のやることを黙々とやる。
疑わずにやる。
ってこと。

日がすぎ、年が流れると
命が終わるときが来る。
自然と。
そういうとき、木々に咲いた花を
「今年がいちばんきれいなんだ」と感じる。

今も、よく聞き取れる耳を持った人なら
おじさんが吹いていた角笛の音を聞くことができる。
それは何かに似ているのだ。

読んでいるうちに、宮沢賢治の世界ともつながることを感じる。
トミー・デ・パウラの『神の道化師』 だったかな?
のことも思い出しました。

たくさんの子どもの本を訳した上田真而子さんが、
いちばん好きな作品だという『熊とにんげん』。

強い言葉は何にも書いてないのに
生き方に示唆を与えてくれるとか
弱くなる心に勇気を与えてくれるとか
そういう作品です。

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