内田百閒作『東京日記 他六篇』
1934年~1948年の間に発表された短い作品が集められた
珠玉のような文庫本。
特に「長春香」と「柳検校の小閑」が印象深い。
柳検校は、明らかに盲目の音楽家宮城道雄がモデルになっている。
内田百閒がその親しい交流を通して見聞きしたことを題材に
描かれているのだろう。
きっとある一日、こういう出来事があったのだろう
というような断片が細やかに描かれている。
描写が美しく、毎日の暮らしの小さなことや
心の動きがしみじみと伝わってくるのが
読み手に心地よく、
何度でも読み返したくなる味わいがある。
読んだ後、ずっと、作品中の空気が
自分の中に残るという感触がある。