敢えて「愛」なんて言葉は使いたくないほどウツクシイ 『三文役者あなあきい伝』

殿山泰司『三文役者あなあきい伝』ちくま文庫
を読みました。
殿山さんは89年に亡くなってるんですね。
まだまだ私なんかいろんなことがわかってなくて
いい気になってたころだな。
映画やテレビに出てたのは覚えている。
文章に気負いがないというのか衒いがないというのか、
なかなかそうはなれない書き方だと思う。
どうしても自尊心が文章のはしばしにでちゃう書き手が多い。

それで、泣けちゃうところがあちこちに。
一人っきりの肉親である弟さんは昭和20年、ビルマで戦死した。
いつも兄である筆者のことを
「タイチャン!!」
と呼んでいた素直でかわいい弟。
筆者の代わりに家業を継ぐことになって、
察するに、そのときに人生のいろんなことを諦めた弟。
ずっと後年、映画の仕事でバンコクへ行ったとき、
筆者は知り合った在留邦人のひとに頼んで
車でビルマとの国境へ連れて行ってもらった。
「戦場にかける橋」の鉄橋のあるところだ。

河の向こうに、弟が死んだビルマがあった。
それは茶色っぽい平原であり、
その遙か向こうに芝居の書き割りのような山々があった。
筆者は声を限りに
「コウチャン!!コウチャン!!」
と弟の
名を叫んだ。
叫ばずにいられなかったのだ。

その描写のあとに続く
「お笑いくだされ諸兄姉よ。だけどねミナサン、・・・」
以下の文章は名文です。
真実、心からの叫びを文章で表すのは至難だけど、
それのできる人なんだな〜〜
ウマイ!ウマイんです!!
何度読んでも泣けます。
なんという兄弟の結びつきだろう。
敢えて「愛」なんて言葉は使いたくないほどウツクシイのです。
この本、おすすめです。

P1020623

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です