さびしくても友だちを見送れる? 『ねずみ女房』

バーバラ・ウィルキンソンというご婦人の家にすむ、めすねずみ。

ある日、森でつかまえられて家にやってきた きじばとと
話すようになる。
外の世界にある 丘のこと、麦畑のこと、雲のこと。
見たことのないもののことを聞いて
それを想像するようになる。

けれども、はとは、用意される豆もあぶらみも食べずに
やせ細っていきます。
めすねずみは、何かわからないけど、
はとを外の世界に帰してやらなければならない気がした。
めすねずみの目には、はとのために流した涙のあとがあった。

ねずみ流にしか考えられないけど、はとの気持ちは想像できました。
そして決心しました。
はとが入れられているかごのとめ金に、歯でぶら下がって
戸を開けてやろうと。

歯がちぎれそうになるまでぶら下がっていると、
はとは、気付いてかごを出て、やがて窓の外へ飛んでいった。

めすねずみはその後、目をまわして下に落ちて
はとが飛んでいくのを見ると、
起き上がってからだをゆすり、毛についたごみをはらいました。

もう、窓の外の世界の話をしてくれる者はありませんでした。
それがわかっていても、戸をあけて見送ったのです。
めすねずみの目には涙がやどっていました。
そして窓の外を見ると、星が見えました。

あの星も、わたしに見えないほど遠くはないということだ、と
めすねずみは言いました。

この本をもっと手に取られるようにしたいが、どうしたらいいかな。
もちろん、極力、紹介するのがいちばん必要なんだけど。
表紙の絵の場面をアピールするのも良いだろう。
石井桃子さんの訳が本当にあたたかく全編を貫いているのを感じる。
一方で、「女房」ということばが、なんだか疎遠な感じになっているのがちょっと気にはなる。

「ぼくもがんばるよ」と心の中で話しかけるようになるまで 『夏の庭』

「夏の庭」とは、
ある一人ぐらしのおじいさんの家の庭。
コスモスがいっぱい咲いた庭。

コスモスのたねが、ぱーっとたくさんまかれたのには
たくさんの事情が折り重なっていたし、
コスモスが咲くかたわらで起こったことも
人の一生のうちで何回もあることじゃない。

6年生男子3人。
古い小さな木造の家に住むおじいさんと知り合う。
その動機は、なんとなくやましい・・・
けど、おじいさんとつきあって少しずつ会話をするうちに
6年生なりにわかっていく。
人生では
「Aさんの家にはりんごがひとつありました。
Bさんの家にはりんごがふたつありました。
両方合わせて3つです、ってわけにはいかない。」
ってことが。

死ぬって、もうその体でぼくと話したり、
いっしょにものを食べたりすることは絶対ないってことだと感じる。

老人には(老人とまでいかなくても)、たくさんの歴史があるのだ。
そうしてやがて、歴史とともにあっちの世へと行くのだ。

残されたぼくたちは、
おじいさんが一人でぶどうを洗っている後ろ姿を想像する。
思い出すのは、そういう日常のなにげない姿だ。
そこにこそ、その人のぬくもりがある。

彼らは、
「ぼくもがんばるよ。」
と心の中でおじいさんに話しかける。

なぞはいつも、人の心の奥から来る

黒髪の少年は、どうやら2つの名前を持っているらしい。

それに気づいた級友ココとトモが、その謎を探ろうとする。
だが、その謎は思ったより深かった・・

歴史の授業で十字軍の戦いについて説明していたガブリッチ先生も、
過去に何か秘密を持っている。

そして、謎を解くために2人が上陸した島で出会う、
顔に傷のある男も、黒髪の少年の秘密に深く関わっているらしい。

戦争や宗教をテーマにした話なのかと思うと、必ずしもそうではなく、
もっと、人の心に関わる話と言えそうです。

ココとトモが、相手の言動から自分を振り返る気持ちが
読者としてもうなづける、説教くさくない形で描かれます。
学校の勉強や狭い人間関係にとらわれやすいわたしたちを
もっと広い世界を見ようよ、と誘ってくれて、
人をうらやむ心を溶かしてくれます。

この本も、表紙と裏表紙の絵が、読む前と読んだあとでは、
違って見えてきます・・

草刈り、炭焼き、盆踊り復活・・体験するってすばらしい

身をもって体験したことは、
人に伝えるとき、ものすごい説得力を持ちますね。

21歳男子大学生が地域おこし協力隊員となって
山村で暮らし、地域おこしに加わります。
山村で欠かすことのできない草刈りから、
簡単そうに見えて
満足にできるまでには相当に苦労します。
それでも、初対面の人にできるだけたくさん会って
コミュニケーション力をつけて
いろんな人たちに鍛えられ学んでいく姿から
不肖50代のわたくしも、学ぶところが多くありました。

戦後生まれで苦労知らずの自分も、
もっともっと体を使った体験を増やさないと
人生つまんないまま過ぎてしまうかもしれない、
なんて思わずにいられなくなる説得力がある本です。

 

読むと心がきれいになる、2ひきのこぐまのおはなし

作者のイーラは、1911~1955ということは、
日本でいえば昭和30年ごろに、
44歳でなくなっているということ。
そのくらいちょっと昔の本なのですが、
おとなの目にはレトロに感じられるところが魅力でもあり。
でも、モノクロ写真が醸し出す森の張り詰めた空気感は
意外なくらい迫力があります。

2ひきの兄弟のクマの姿がモノクロの写真で
しぜんに、しかも驚くほど表情豊かにとらえられています。

まいごになって、森のあちこちを歩いて歩いて
おかあさんを探す2ひきの足どりと、息遣いまでが
伝わってきます。
それに、歩きに歩いているいろんなかっこうをした2ひきの姿が
どれもかわいらしさ満点なんです。

読んでいる人も、2ひきといっしょに森の落ち葉を踏みしめて
ちょっと不安になりながら
初めての道を進んでいる気持ちになります。

いろんな動物に会って
探しているおかあさんについて尋ねる口調が
礼儀正しく美しい言葉遣いなのも
心地いいです。

読後に心がほんとに満たされる絵本です。