本の持つ力とは?ー本を守ろうとする猫の話ー

読み進むにつれて、主人公・林太郎の祖父の古本屋が続いてほしい、という願いが強まってくる。

本を救うため林太郎を起用したのが
古本屋の奥の壁から現れた猫なのは、古本屋のイメージと猫の人気度からして無理もない!

本を害していた3種類の人々は、もともとは本を愛していた人々だった。

愛したがゆえに、本があり続けるためにどうしたらいいか考えるうち、それぞれの邪道に陥ったのだ。

聞いてみるとそれぞれもっともな理由だ。

読み応えのある本は、長くて読むのが苦しくて、内容だけ知れるならそれでいいと思いがちだ。心を揺さぶられるのは、億劫だ。

けど、感動を味わうのは当然ある程度の長さの本でなければ。

出版社が売れる本だけ売っていたらどうなるだろう?

手軽なもの、安価なもの、刺激的なもの、そういう読み手たちの求めるものに本は姿を変えていく。

一方、大切にされた本には心が宿り、そして心を持った本は、その持ち主に危機が訪れたとき必ず駆けつけて力になる。

林太郎は、本の力って何なのか、ずっと考えてきたという。
そして、思い当たる。

古本屋を営む祖父を突然亡くした高校生の林太郎と

学級委員長の柚木さん、トラネコ、迷宮の人々、それぞれの行き方で本と関わる。やっぱり本は人を不思議な世界へ導く架け橋なんだな。

読後感がいいミステリー『本の町の殺人』

殺人事件なんだけど
読後感が悪くない。

事件が起きるんだけど
その謎解きだけの展開ではない。

登場人物が多すぎなくて、関係も複雑でない。
(特に翻訳ものの場合、人の名前を覚えるのにひと苦労しますからね)

それに、人物がよく描きこまれているので
一人一人が生きていて共感(反感)しながら読める。
これは小説を読むのに大事な要素だと思います。

だから、読書好きな大人でも
物足りなさを感じずに読めるし、
一方、普段あまり小説読まないという人が
ライトな感覚でも読めるミステリーだ思います。

本の町は、東京なら神保町だけど、
このミステリーのモデルになったのは
英国ウェールズのヘイ・オン・ワイという町だそうです。
それまでの産業が廃れたところを
本の町として再生したそうで、観光客も集まってくるそうです。
(訳者あとがきより)

主人公のトリシアもそういう町の
しかもミステリー専門の本屋を営む女性。
ニューヨークで楽に暮らしていたが
離婚を機に本の町に来たという境遇。
〈ハブント・ゴット・ア・クルー〉という店名もかっこいい。

友達になりたい人はこの人とこの人と・・・
と思える空気を持つミステリーです。

あ、大事なことを言い忘れました。
表紙にもいる飼い猫のミス•マープル!
(この本は、猫の本専門店キャッツミャウブックスさんで購入しました。
主人公が飼っている猫ゆえに仕入れられたのですから
その縁で私はこの本に出会ったというわけです。)
ミス・マープルの存在感も大事な要素となっています。

いつの頃からか「パッとしない自分」になっていた自分につける薬として

「自分の人生に与えられたのはこの程度で、まあこれ以上でもこれ以下でもないんだろうな」
という感覚が年齢を経るごとに強くなってくる・・・
・・この感覚、わたしもすでに味わったことあります。

自分で自分にブレーキをかけて伸びなくしてしまっているんです。
それをわかっているのに、いつの間にか、
自信のなさから、やってみる前にあきらめてしまう。
がんばって失敗するのが恥ずかしい、っていうような気持ちに
おおわれている。
年をとってくると、そうい思考回路をとることが多くなりがちです。

でもほんとうは、
自分として幸せだと思う生き方をすることは
何歳からでもできる。
自分が楽しいと思うことをやっている時間を、工夫してふやそう。
幸せになろうとみずから願って、方法を工夫して実現していかなきゃね。
「どうせ」とか「自分なんか」っていう感覚を減らそう。

そんなふうに思わせてくれる本です。