「スコットランド最後のオオカミ、この石の近くで射殺さる」 『最後のオオカミ』

「最後のオオカミ」というタイトルだから、動物物語だと思うと、
少し違います。
主人公は、孤児の少年ロビーです。
ロビーは、1795年に亡くなったスコットランド人。

もともと父も母も知らず、
偶然保護してくれた2番めの両親とは
戦争で死に別れました。
ボニー・プリンス・チャーリーという
スコットランドの歴史上の人物が率いる反乱軍が
イングランドに進撃した戦いです。

自分も敵から逃れて山に潜んでいるときに
母を殺された子どものオオカミと出会い、
チャーリーと名付け、それから「孤児」どうし、いつも一緒でした。

チャーリーを犬と偽って海辺の町で暮らしていたある日、
立派な紳士と出会います。
その人がロビーとチャーリーを新しい天地へと導いてくれることになるのです。
実は彼は大きな船の船長なのですが、
そんなに親切なのは、彼自身、悲しい過去を抱えて生きているからでした。

その後、読者の想像を超えた困難を経て新しい天地に着いた一人と一匹に、
うすうす予想されていた別れのときがきます。
ロビーは、そのときのことを思い出すと何年たっても涙があふれる、
と後年書いています。

「書いています」というのは、
これは、ロビーが後年書いた遺言書にあった物語だからです。
その遺言書こそが、この物語だったのです。

アメリカに住む一人の女性が
最近になって自分の家で発見した一通の古い遺言書。
その中には、あらゆる形で戦争に巻き込まれ、
人生を変えられた大勢の人たちがいました。

『戦火の馬』や『世界で一番の贈りもの』のマイケル・モーパーゴが
「スコットランド最後のオオカミ、この石の近くで射殺さる」
という石に刻まれた文字から着想した物語です。

ロンドン動物園のオオカミの絵にまつわるお話として書かれたもので、
ある家系の祖先探しから始まりながら
戦争で傷つけられた人びとと動物の物語でもあります。

ロビー少年の生きる力と
良きものがどれかを判断するまっすぐな心に
感動します。

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